第5章 宗教・神話におけるホリスティックな全体性
5.1 「聖」と「全体性」
宗教や神話は、人間が全体性を直感しようとした最も古い営みである。
そこでは「神」「宇宙」「生命」といった存在が、分割不可能な全体として語られる。
聖なるものとは、部分に還元できない「全体の響き」の別名である。
ホリスティックという言葉が近代以降に生まれたのに対し、宗教・神話は古代から「全体をどう生きるか」を問い続けてきた。
5.2 神話におけるホリスティック
- ギリシア神話:アポロン(理性・秩序=知)とディオニュソス(陶酔・衝動=魂)の対立と統合。
- インド神話:オーム(AUM)の音が宇宙の根源を表す。音が知と魂の両方を貫く。
- 日本神話:天岩戸の物語における「音楽と舞」による世界再生。音が宇宙秩序を取り戻す鍵となる。
神話は、知と魂、光と闇、生と死といった両極を「全体の物語」として統合してきた。
5.3 宗教におけるホリスティック
- 仏教:縁起の思想は「部分が全体を成り立たせ、全体が部分を含む」というホリスティックな循環を説く。
- キリスト教:ロゴス(言=知)が肉体をとり、愛(魂)として現れる。ここでも知と魂の統合が核心。
- イスラーム:コーランは「響き(朗誦)」として伝えられ、文字だけでなく音の美を通じて聖性を帯びる。
宗教は、知の体系(教義)と魂の体験(祈り・儀式)を一体化させ、音を媒介に共同体を成立させる。
5.4 儀式と共鳴
宗教儀式は、言葉・歌・舞・香・光を統合した「総合芸術」である。
そこでは人間は個としてではなく、共鳴する全体の一部となる。
- 聖歌や真言は、知の記憶と魂の震えを同時に呼び起こす。
- 礼拝のリズムは、身体と宇宙の律動を一致させる。
ここにおいて「ホリスティック」は単なる思想ではなく、実践される構造として現れる。
5.5 次章への展望
芸術が「美」として全体を顕現し、宗教・神話が「聖」として全体を表した。
では、現代においてこのホリスティックな統合原理はどのように再発見されているのか。
次章では「科学」との接続を取り上げる。
量子論、脳科学、宇宙論といった現代科学の最前線に、知と魂と音の統合がどのように現れているのかを探っていく。